バイクの雨の日の走り方|濡れた路面で伸びる制動距離と、滑りやすい場所の避け方

バイクの雨の日の走り方|濡れた路面で伸びる制動距離と、滑りやすい場所の避け方

雨のツーリングで怖いのは、晴れの日と同じ感覚のまま走り出してしまうことだ。JAF(日本自動車連盟)が二輪車で行った実験では、濡らした路面のほうが、乾いた路面より止まるまでの距離が長くなっている。しかも、測ったすべての項目でそうなった。

この記事では、雨でバイクの何が変わるのか(止まる・曲がる)、路面のどこが危ないとメーカーが名指ししているのか、タイヤの溝の下限が告示にどう書かれ、それがどの車両に向けられているのかを、出典を示しながら整理する。精神論ではなく、公表されている実験結果と告示の条文から逆算した内容だ。

目次

雨で最初に変わるのは、止まるまでの距離

JAFは2024年1月31日から2月1日にかけて、茨城県にある自動車安全運転センターの安全運転中央研修所で、排気量のちがう二輪車を走らせ、ブレーキと旋回の特性を測っている(JAFユーザーテスト「車とは異なるバイクの特性とは?」)。

どんな条件で測ったのか

走ったのはホンダ PCX125、ホンダ レブル250、カワサキ Z900RS の3台。排気量でいうと125cc・250cc・900ccという並びで、車種は排気量ごとに国内でよく売れているものから選ばれている。比較の参考として四輪も1台走らせている。ライダーは、全日本ロードレースや鈴鹿8時間耐久ロードレースに出場した経験のあるプロだ。

ブレーキのテストは、パイロンを通過したところでフルブレーキ。速度は40km/hと60km/h、それに100km/hの3つで、乾いた路面と、機械で濡らした路面のそれぞれで距離を測っている。4台ともABSを積んでいて、ABSが最大限に効く状態でブレーキをかけた条件だ。125ccの二輪だけは、安全のため100km/hを走っていない。

結果は、全項目で伸びた

JAFの結論はシンプルだ。乾いた路面と比べて、全てのテスト項目で制動距離が伸びた。同じ検証を伝えるJAFのニュースリリースにも、同じ結論が載っている。

速度別・車種別の実際の距離は、JAFのページに図として掲載されている。ここで押さえたいのは順位の話ではなく、濡れれば全部伸びた、という部分だ。自分の愛車が何ccであっても、雨の日は晴れの日より手前でブレーキを始める必要がある、ということになる。

JAFはまとめで、周囲の状況を見ながら速度を控えめにし、車間距離を十分に取ることを勧めている。理由として挙げているのは、二輪は四輪と比べると低速域では制動距離が短いものの、速度が上がるにつれて長くなる、という点だ。そのうえで、路面が濡れていれば距離はさらに伸びるので注意が必要だ、と付け加えている。

速度が上がるほど、カーブで外に膨らむ

同じ検証には旋回のテストもある。パイロンで作ったコースへ一定速度で進入し、カーブの軌跡を測ったものだ。速度は4段階で、いちばん遅いのが40km/h、いちばん速いのが100km/h。その間に60km/hと80km/hが入る(125ccの二輪は、安全のため速いほうの2段階を走っていない)。

ニュースリリースによれば、回転半径は速度とともに大きくなり、80km/hでは60km/hの2倍以上になった。ただし、これがどの排気量の値なのかは示されていない。3台のうちどれか、あるいは全体の傾向なのかは、この資料からは読み取れない。

一方、ユーザーテストのページによれば、低めの速度域(40km/hと60km/h)では二輪と四輪で大きな差は出ず、80km/h・100km/hと速度が上がるにつれて、膨らんで曲がる傾向が見られたという。

ここは正直に書いておきたい。この旋回テストには、路面の条件が示されていない。ドライとウェットを分けて明記しているのは、制動テストのほうだけだ。つまり、雨だから膨らむという実験ではなく、速度が上がると膨らむという実験だ。雨の日に膨らみが何倍になるかは、この資料からは分からない。

それでも、雨の日にカーブ手前で速度を落とす理由は増える。止まるまでの距離は濡れた路面で確実に伸び、曲がれる半径は速度が上がるほど大きくなる。この2つが同時に効いてくるのがカーブへの進入だからだ。JAF自身も、カーブの手前で十分に減速し、速度を一定に保ちながら走ることを勧めている。

滑りやすい場所は名指しされている ── マンホールと白線

雨の日は路面が滑る、と一般論で言われても、どこで気をつければいいのかは分からない。ここはメーカーがはっきり名指ししている。Hondaの交通安全情報紙に載っている危険予測トレーニング(KYT)の第75回は、テーマがそのまま雨天時のカーブ(二輪車編)で、雨の日はマンホールや白線の上がすべりやすいとして、注意を促している。

このページでHondaが挙げている注意点は、次の3つだ。3つとも拾っている(順番も掲載どおり)。

  • マンホールと白線の通過:その上を通るときは、速度を十分に落とすこと。車体はできるだけ立てたままにして、急ブレーキ・急ハンドルを使わず慎重に通ること。路面の状況が悪いときは、できる範囲で、マンホールや白線そのものを踏まないラインを選ぶのも事故防止につながる。そしてもう1つ、雨の日はカーブの手前でしっかりと減速して、急ブレーキや急ハンドルを使う場面自体をつくらないように、とも書かれている(カーブの減速については、前の節でJAFの側からも触れた)。
  • シールドの視界:雨の日は、ヘルメットのシールドが曇る。路面の状況が見えにくくなるので、停まったときに水滴や曇りを拭く、出発前にシールドへ撥水材や曇り止めを塗っておくといった手当てで、視界を確保する。
  • 自分の存在を伝える:四輪のドライバー側も視界が悪くなっている。車体が小さいぶん、二輪車は見落とされることも考えられる。黄色や白といった視認性の高い色を選び、レインウエアで自分の存在を知らせることも大切だ。

1つ目の書き方に注目してほしい。Hondaは、必ず避けろとは書いていない。「無理のない範囲で」という言い方だ。実際、交差点の停止線や横断歩道の手前は白線だらけで、避けようとして不自然なラインを取るほうが危ない場面もある。避けられないなら、車体を立てたまま、加減速をせずに通過する。ここがHondaの書き方から読み取れる優先順位になる。

もう1つ、雨そのものより路面の汚れの話もある。JAFはクルマ向けのQ&Aで、雨天時のスリップ事故を防止するポイントとして、降り始めの雨では路面に浮いたホコリや泥のせいで滑りやすくなる、と注意を促している。クルマ向けに書かれたページだが、浮いているのは路面側なので、二輪でも条件は変わらない。

雨の日は、見る側と見られる側が同時に悪くなる

上のHondaの2つ目と3つ目は、走り方ではなく準備の話だ。シールドの曇り止めも、レインウエアの色も、走り出す前にしか手を打てない。降り出してから路肩で対処しようとすると、その路肩に停まっていること自体が危ない。

ツーリングの荷物の組み方は別記事にまとめてあるので、レインウエアを含めた持ち物の考え方はそちらを見てほしい(ツーリング初心者の持ち物リスト完全ガイド)。

タイヤの溝の下限は、何ミリと書いてあるか

雨の話でタイヤの溝が出てくるのは、溝が水を逃がす通り道だからだ。そして溝の深さには、法令の定めがある。ただし、その定めがどの車両に向けられているかまで、条文を見ておく必要がある。

国土交通省が出している道路運送車両の保安基準の細目を定める告示 第89条(走行装置)は、自動車の空気入ゴムタイヤの接地部の滑り止めについて、いずれの部分でも1.6mm以上の深さがあることを求めている。この条文にはかっこ書きがいくつも挟まっていて、読み飛ばすと意味が変わる。ここで効いてくるのは、そのうちの2つだ。ひとつは、溝の規定そのものから除かれる車両で、最高速度40km/h未満の自動車や大型特殊自動車などがこれにあたる。もうひとつが数字のほうで、二輪自動車と側車付二輪自動車に備えるタイヤは0.8mmと書かれている。

ここで見落としたくないのが、この告示が自動車についての規定だという点だ。第89条のうちタイヤの滑り止めを定めているのは第4項で、その書き出しは「自動車の空気入ゴムタイヤ」である。そして道路運送車両法の上では、総排気量125cc以下の二輪は原動機付自転車にあたる(道路運送車両法施行規則 第1条(原動機付自転車の範囲及び種別))。原動機付自転車は、この告示が「自動車の」と書いている側とは別の呼び名だ。つまり、冒頭で挙げたPCX125のような125cc以下の車両にこの0.8mmがそのまま当てはまるとは、この条文からは読み取れない。

では125cc以下は何ミリなのか。その下限を定めた規定があるかどうかは、この記事で当たった資料の範囲では確認できなかった。分からないものとして置いておく。そもそも下限の数字と、雨の日に余裕をもって走れる溝の深さは、別の話でもある。

なお同じ条文には、溝の深さは、ウエア・インジケータで判定しても差し支えない、とも書かれている。ウエア・インジケータとは、いわゆるスリップサインのことだ。

取り違えたくないのは、この0.8mmが下限だという点だ。0.8mm以上と書いてあるのは、それを下回ってはいけないという意味であって、0.8mmまで減っても雨の日に同じように走れるという意味ではない。JAFは先ほどのQ&Aで、残り溝が浅くなるほど制動距離は長くなり、旋回したときの膨らみも大きくなる、と書いている(こちらはクルマのテストを根拠にした記述だ)。

溝の残りをいつ見るか、ほかに何を見るかは、点検の頻度をまとめた記事に整理してある(バイクメンテナンス、初心者はどのくらいの頻度でやるべき?点検項目・費用を完全ガイド)。溝の深さは検査でも見られる項目なので、車検のある車両については費用と一緒に把握しておくと段取りが楽になる(【2026年最新】バイクの車検費用はいくら?相場の内訳とユーザー車検で安く抑えるコツ)。

水たまりとハイドロプレーニング現象の話

雨の不安として名前が挙がりやすいのが、ハイドロプレーニング現象だ。タイヤメーカーのダンロップはハイドロプレーニング現象の解説ページで、濡れた路面を高速で走ったときにタイヤと路面のあいだに水の膜ができ、浮いたような状態になって、ハンドルもブレーキもコントロールできなくなる現象だと説明している。

仕組みはこうだ。水がたまった路面では、タイヤは溝から水を逃がしながら路面をつかんで回っている。速度が上がりすぎると、その逃がす働きが追いつかなくなる。原因として挙げられているのは、まず水のたまった路面で速度を出しすぎること、それにタイヤの溝が大きく減っていることや、空気圧の不足などだ。

同じページには、この現象は高速道路でとくに起きやすい傾向がある、とも書かれている。ただし、めったに起きないものとして書かれているわけではない。ダンロップは「雨の日の高速走行などで誰にでも起こりうる」現象であり、必ず覚えておきたいトラブルだとしている。そのうえで、水がたまりそうなときは高速での運転をしない、とダンロップは書いている。わだちのできた道路は水がたまりやすいので、わだちを外して走ることも勧められている。

ひとつ注意しておきたい。このページはクルマ向けに書かれている。起きてしまったときの対処として、ハンドルを切らず、ブレーキも踏まずにグリップが戻るのを待つ、という記述があるが、これは四輪についての説明だ。二輪で同じ操作をすべきだとは、このページには書かれていない。二輪について確実に言えるのは、起こさないこと自体が最大の対策だと同ページが書いている、その部分までである。

雨の日に、走り出す前に決めておきたいこと

ここまでの出典から言えることを、順番に並べておく。

  • 速度と車間:濡れた路面では止まるまでが伸びる。JAFは、速度を控えめにして車間を十分に取ることを勧めている。
  • カーブは手前で終わらせる:JAFは、カーブの手前で十分に減速し、速度を一定に保ちながら走ることを勧めている。回転半径は速度とともに大きくなる。
  • マンホールと白線:Hondaは、通過時に速度を十分に落とし、車体を傾けず、急ブレーキ・急ハンドルを避けるよう書いている。避けるのは、無理のない範囲で。
  • 視界と被視認性:曇り対策は出発前に済ませる。レインウエアは視認性の高い色を選ぶ。
  • タイヤ:告示は、二輪自動車と側車付二輪自動車に備えるタイヤの溝を0.8mm以上と定めている。ただしこの告示は自動車についての規定で、125cc以下(原動機付自転車)に当てはまるとは、この条文からは読み取れない。どちらにしても、下限であって目標ではない。

雨の日は走らない、という選択肢ももちろんある。ただ、ツーリング先で降られるのは避けられない。降られたときに何を優先するかを先に決めておけば、路面を見ながら慌てずに済む。転倒したときの備えという意味では、任意保険の中身も一度見ておくといい(バイクの任意保険はいくら?相場と選び方を排気量・年齢別に徹底解説)。

参考にした情報源

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