セルは元気に回っているのに、エンジンだけがかからない。これは「電気はある程度来ているのに、燃える条件がそろっていない」状態だ。見ていく順番は、スイッチの操作、燃料、点火。工具を出す前にできる確認から並べる。
根拠は、ヤマハ発動機が公開している情報に置いた。ただし末尾に挙げた出典のうち、燃料の変質を扱ったものは二輪向けではなく発電機のページで、そのことは本文でも断っている。焦って何十回もセルを回す前に、まず上から順に見ていってほしい。
セルが回る=電気の入り口は生きている、ということ
エンジンがかかるには、燃料・点火・圧縮の3つが必要になる。セルモーターが勢いよく回っているなら、バッテリーとセルまわりは最低限の仕事をしていると考えてよい。ただしこの3つのうち圧縮だけは、工具も測定器もなしに路上で確かめられるものではない。だからこの記事では、操作・安全装置、燃料、点火の順に、手ぶらでできるところから潰していく。圧縮が原因かどうかは、そこを潰しても直らなかったときにショップで見てもらう話になる。
そこで実際に確かめる順番は、次のようになる。
- 操作ミス・安全装置(スイッチ類、スタンド、ギア)
- 燃料が届いているか(残量、コック、古いガソリン)
- 火花が飛んでいるか(プラグ)
なお、セルそのものが回らない、押すとカチカチ音だけ鳴るという場合は、原因の入り口が違う。そちらはバイクのセルが回らない・カチカチ鳴る|その場で確かめる順番とNG行動にまとめてあるので、症状が違う人はそちらを先に見てほしい。
工具を出す前に、手ぶらで確かめるところ
ヤマハ発動機のエンジンがかからない……そんなときはまずここをチェック!では、最初に見る場所として燃料の残量、エンジンストップスイッチ、燃料コック、バッテリーの状態が挙げられている。エンジンストップスイッチは、何かの拍子でOFF側に動いていることがあり、ベテランライダーでも慌てるケースがある、と同ページは書いている。
この記事で下に並べるのは、この4つそのものではない。バッテリーは外した。セルが勢いよく回っている時点で、最低限の仕事はしているからだ。代わりに、別のヤマハのページを根拠にサイドスタンドを足してある。ここから見るのが遠回りに思えても、結局はいちばん早い。
1. エンジンストップスイッチ
右手のスロットルグリップの横にある、エンジンを止めるためのスイッチ。ここが停止側のままだと、セルは回っても点火系が働かない。給油のときやカバーを掛けるときに指が当たって動いていることがあるので、目で見て位置を確かめる。
2. 燃料の残量
燃料計が付いていない車種では、思っているより減っていることがある。トリップメーターを最後にリセットしてからの走行距離を思い出すか、給油口を開けてタンクの中を直接のぞくのが確実だ。
3. 燃料コック
コックが付いている車種では、停止側になっていれば燃料はエンジンまで届かない。近年の車両では装備されていないことも多いので、自分の車両にあるかどうかは取扱説明書で確認しておくといい。
4. サイドスタンドとギアの位置
スタンドの戻し方が中途半端だと始動できない仕様の車種がある。ヤマハのサイドスタンドの正しいかけ方、外し方は、そういう仕様の車両があることを理由に、スタンドは確実に戻すようにと書いている。つまりここで見るのは「出ているかどうか」より「最後まで戻っているか」だ。払ったつもりで途中で止まっていないか、いったん足で払い直し、ギアをニュートラルに入れ、クラッチレバーを握った状態でもう一度セルを押してみてほしい。
ギアの入り方そのものが渋いなら、そこにも原因があるかもしれない。ハーレー乗りで心当たりがあるならハーレーニュートラルに入りにくい時の5つの対策もあわせてどうぞ。
火花が飛んでいない:プラグの「カブる」を疑う
スイッチまわりが問題なければ、次は点火だ。ここで候補に挙がるのが、プラグが濡れて火花が飛ばなくなる状態、いわゆる「カブる」だ。
ヤマハ発動機の用語解説カブるによれば、燃え切らなかったガソリンがプラグに付着すること、混合気が濃すぎること、燃焼温度が低すぎることが原因として挙げられている。チョークが付いている車両なら、寒い朝に引いたまま何度もセルを回した、という状況がこの条件に当てはまりやすい。
同ページが挙げているのは、決まった手順ではなく2つの入り口だ。
- 乾くまでしばらく待つ
- あるいは、プラグを外して電極のあたりを見てみる
外してみて、電極のあたりが黒く濡れ、ガソリンのにおいがするならカブっている。拭いて乾かしてから付け直せばかかる、というのが同ページの説明だ。プラグ自体は高い部品ではないので、性能に不安が残るなら交換してしまうのも手だ、とも添えられている。
ただし同ページは、プラグを交換してもカブりを繰り返すようなら別の原因が考えられるから、お店に見てもらったほうがいい、とも書いている。カブりを毎回拭いて乗り続けるのは、症状に蓋をしているだけになりかねない。
なお、プラグを外す作業は車種によって手順も必要な工具もかなり違う。自信がなければ無理に外さず、次の項目を先に確認してからショップに相談したほうが安全だ。
しばらく乗っていなかったなら、燃料の変質も候補に入る
数か月ぶりにエンジンをかけようとしている、という状況なら、燃料そのものが傷んでいる可能性を視野に入れたい。
先に断っておくと、ここから書くのはキャブレターを積んだ車両の話だ。燃料噴射(FI)の車両にはキャブレターそのものが無いので、この詰まり方はそのままは当てはまらない。
ヤマハ発動機は発電機のお手入れガイド・長期保管手順で、キャブレター内の燃料を抜かずに置くとガソリンが変質し、内部の細い通路が詰まって次回の始動が難しくなる場合があると説明している。これは発電機の手順として書かれたものだが、キャブレターを持つ小型のガソリンエンジンという点ではバイクも同じ構造だ。
ただし、二輪車で実際にどこまでやるべきかは車種によって異なる。キャブレター車なのか燃料噴射車なのか、コックの有無はどうか、保管前に何をすべきか。ここは一般論で決めず、自分の車両の取扱説明書に従ってほしい。詰まりが疑われる段階なら、分解を伴うのでショップの仕事になる。
やらないほうがいいこと
かからないときほど、やってはいけない操作をやってしまいやすい。次の2つは覚えておきたい。
セルを連続で回し続ける。セルモーターはバッテリーの電気を大きく使う。かからないまま回し続ければ、最初は元気だったバッテリーも弱っていく。さらに、燃料が送られている状態で点火できていないなら、プラグが濡れる方向に進むことにもなる。数秒回してダメなら、いったん手を止めて上のチェック項目に戻るほうが早い。
原因が分からないまま押しがけを繰り返す。押しがけをしていいかどうかは車両によって違うので、まず自分の車両の取扱説明書を確認してほしい。動いている車体にまたがる作業でもあるので、少なくとも平地でないところや交通量のある場所でやることではない。
それでもかからないときの引き際
ここまでの確認で復帰しないなら、原因は燃料系の詰まりや点火系の部品、電装のどこかである可能性が出てくる。いずれも、路上で工具なしにどうにかできる範囲を超えている。
出先ならロードサービスを呼ぶ、自宅なら販売店に症状を伝えて相談する。そのとき「セルは回る」「スイッチとスタンドは確認済み」「最後に乗ったのはいつか」を伝えられると、話が早い。原因の切り分けは、症状を正確に伝えるところから始まる。
そもそも同じことを繰り返さないためには、乗る前の点検を習慣にしておくのが結局いちばん効く。どこをどのくらいの頻度で見ればいいかはバイクメンテナンス、初心者はどのくらいの頻度でやるべき?点検項目・費用を完全ガイドにまとめてある。
よくある質問
セルは回るのに、キュルキュル言うだけで火が入りません
クランキングはできているので、燃料か点火のどちらかが足りていない状態が疑われる。まずエンジンストップスイッチと燃料コック、燃料残量を確認し、それでも変わらなければプラグの状態を見るのが基本の順番になる。
一度かかったのに、走り出したら止まってしまいます
始動はできて走行中に止まるという症状は、この記事で扱った始動時のチェックとは切り分けが変わる。燃料の供給不足や電装の接触不良など候補が広がるので、症状の出方(信号待ちか、加速中か、雨の日だけか)をメモしてショップに相談したほうが早い。
プラグを交換すればとりあえず直りますか
プラグがカブっていたケースでは改善することがあるが、交換しても繰り返すなら別の原因があると、ヤマハも書いている。交換して直ったとしても「なぜ濡れたのか」は残るので、同じ症状が続くなら点検を受けてほしい。
まとめ
セルが回るのにかからないときは、いきなりプラグを外すより先に、スイッチ・スタンド・燃料という手ぶらで見られるところから順に潰していくほうが早い。そのうえで点火(カブり)、燃料の変質と進み、手に余ると判断したらロードサービスか販売店に渡す。
焦ってセルを回し続けるのが、いちばん状況を悪くする。順番を決めておけば、路上でも落ち着いて切り分けられる。


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