アクセルを開けたのに、エンジンの回転ばかり上がってスピードがついてこない(この症状の書き方は書き手の説明)。そんなときに疑うのが「クラッチの滑り」だ。
この記事では、ホンダとヤマハの取扱説明書を中心に、ヤマハの公式ブログやJASO規格の資料も読んで、①クラッチが滑るとはどういう状態か ②メーカーなどの資料に書いてある、クラッチの滑りや傷みにつながること ③販売店に持ち込む前に、工具を使わずに見ておけること を整理した。
先に書き手の結論を言っておくと、まず見るのはエンジンオイルだ。車種の指定規格(今回読んだホンダGROM・CB250Rの説明書ではJASO規格のMA)に合っているか、摩擦を減らす添加剤を入れていないか。そのうえで滑っている疑いが消えないなら、自分で試したりばらしたりせず、販売店に相談してほしい。
なお、これは運営者がクラッチの滑りを実際に直した記録ではない。メーカーの資料に書いてあることと、書き手の考えは分けて書く。
クラッチが「滑る」とはどういう状態か
ヤマハ発動機の公式ブログ「乗らずに学べるバイクレッスン(クラッチの構造と役割)」は、クラッチの中身を次のように説明している。
- クラッチの中では、2種類のクラッチ板が交互に重なっている
- レバーを放しているときはクラッチ板がつながり、エンジンの力はそのまま後輪へ伝わる
- 半クラッチは、クラッチ板をわずかに滑らせて、後輪に伝える力の量を調整している状態
ここからは書き手の整理だ。半クラッチは「わざと滑らせている」状態なので、レバーを放しているのに力の一部が逃げてしまうのが、いわゆるクラッチの滑りだと考えると分かりやすい。冒頭の「回転は上がるのに速度がついてこない」は、その力が逃げている分の感じ方として書いた。今回読んだメーカーの資料の中には、滑りの症状そのものを説明した箇所は見つけられなかったので、症状の書き方は書き手の説明として読んでほしい。
もう一つ、この記事はMT車(ギアを自分で変えるバイク)の話だ。HondaGO BIKE LABのエンジンオイル解説によると、変速機付きのバイクは湿式多板式クラッチで(スクーターや一部の車種を除く)、クラッチはクランクケースの中にあり、エンジンと同じオイルで潤滑されている。
メーカーなどの資料に書いてある、クラッチの滑りや傷みにつながること
1. エンジンオイルの規格(JASO MA/MB)
エンジンオイルがクラッチも潤滑していることは、ヤマハのXVS400/XVS400Cの取扱説明書にも書いてある。だからオイルの性質が、クラッチのつながり方に関わってくる。
二輪車用4サイクルエンジンオイルには、JASO T 903という規格がある。JASOエンジン油規格普及促進協議会の規格利用マニュアルでは、性能をMA・MA1・MA2・MBの4グレードに分け、MBを低摩擦特性の油と位置づけている。
ヤマハの純正オイルのページは、摩擦特性が湿式クラッチの滑りに影響すると説明し、摩擦特性の高いものをMA、低いものをMBとしたうえで、MBは湿式クラッチを持たないスクーター向けのオイルだとしている。
前出のHondaGO BIKE LABも、変速機付きのマニュアル車にはMAを使うとしている。理由として挙げているのは、MBのほうがやや滑りやすい特性なので、ハイパワーな大型車などに使うとクラッチが滑る可能性がある、という点だ。
ここで排気量の話を切り分けておく。「滑る可能性」の例として大型車が挙がっているが、今回読んだ資料には「小さいMT車ならMBでよい」とは書いていない。むしろヤマハの純正オイルのページとHondaGO BIKE LABは、MBをスクーター向けとしている。今回読んだ説明書では、ホンダのGROMもCB250Rも、JASO規格はMAを指定している。自分のバイクの指定は、そのバイクの説明書で確認してほしい。
2. 摩擦を減らす添加剤・摩擦低減剤の入ったオイル
ホンダとヤマハの説明書は、どちらも添加剤に触れている。書き方の強さが違うので、分けて並べる。
- ホンダ(GROM・CB250R):摩擦を必要以上に下げるタイプのオイル添加剤は使わない。エンジンとクラッチの性能や寿命に、よくない影響が出ることがあるため
- ヤマハ(XVS400/XVS400C):化学添加剤は一切加えない。添加剤はクラッチがすべる原因になる。あわせて、ヤマハ純正オイルのヤマルーブFXをこの車に使わないよう書いている
HondaGO BIKE LABは、摩擦低減剤を含むオイルを使うとクラッチが滑りやすくなるおそれがあるとして、四輪用のエンジンオイルはバイクに向かないと説明している。
3. 発進時のクラッチの使い方(クラッチ板の熱)
こちらは「滑り」という言葉ではなく、クラッチを傷める使い方として書かれている。
- ヤマハの公式ブログ(クラッチの構造と役割):発進時にエンジン回転を上げすぎると、摩擦の熱でクラッチ板を傷めるうえ、急発進のリスクも高まる。間違った操作は、摩耗を早めたりトラブルの原因になったりすることもある
発進時のクラッチ操作は、同じヤマハのブログにレバー位置の調整と操作のコツが載っている。クラッチまわりの別の悩みとして、ハーレーでニュートラルが入りにくいときはハーレーのニュートラルが入りにくいときの対策にまとめている。
販売店に持ち込む前に、工具を使わずに見ておけること
ここからの並びは、上の資料をもとに書き手が組んだものだ。メーカーが示している手順ではない。
オイル容器の表示と、説明書の指定を見比べる
ホンダのGROMとCB250Rの説明書は、オイル容器の表示を確認して、指定の規格をすべて満たすものを選ぶよう書いている。さらに、規格をすべて満たしていても特性が違って、その車に合わない場合があるとも断っている。直近のオイル交換で何を入れたか、交換した店に聞くか、レシートや容器で確かめるのが早い。
添加剤を入れていないか思い出す
オイル交換を店に頼んだ場合は、添加剤を入れたかどうかも、その店に聞けば分かる。上のホンダとヤマハの書き方を見るかぎり、入れているなら販売店に伝えたほうがいい情報だ。
クラッチレバーの遊びを、説明書の規定値と比べる
ヤマハXVS400の説明書は、抵抗を感じるまでレバーを引き、レバー先端の遊びをスケールなどで測る、という点検方法を載せている。規定値は車種で違い、GROMは10〜20mm、XVS400は10.0〜15.0mm(同じ説明書でもXVS400Cは5.0〜10.0mm)だ。
ただし、遊びの量とクラッチの滑りの関係は、今回読んだメーカーの資料には書かれていなかった。ヤマハのブログ(クラッチ操作の回)には、クラッチが硬い、遊びが多すぎる・少なすぎるといった整備のできていない車では、正しく操作しようとしてもバイクを思いどおりに扱えない、と書いてある。滑りの原因を突き止める点検ではなく、持ち込む前に状態を把握しておく点検と考えてほしい。
説明書には遊びの調整方法も載っているが、書き手としては、規定値から外れていたら無理に自分でいじらず、販売店に相談するのを勧める。調整する場合も、ヤマハのブログはエンジンを止めた状態で行うこと、車種ごとの方法は説明書で確かめることを挙げている。ホンダGROMの説明書は、調整後にエンジンをかけてギアチェンジがスムーズか、エンストや飛び出しがないかを確かめるよう書いている。ヤマハXVS400の説明書も、調整後にギアチェンジやエンストを確かめ、車の飛び出しに注意するよう書いている。
日ごろの点検の範囲や頻度は、バイクメンテナンスの頻度をまとめた記事も参考にしてほしい。
滑りを「確かめるため」に負荷をかけない
ここは書き手の考えだ。滑るかを確かめるために、ギアを入れて後輪ブレーキをかけたままクラッチを最後まで放す、回転を上げたまま半クラッチを長く続ける、といった負荷のかけ方はやめておこう。なお、ヤマハのブログ(クラッチ操作の回)は、坂道発進で後ろに下がったりエンストしたりする人へのアドバイスとして、後輪ブレーキをかけたままバイクが動き出す位置までクラッチをつなぐ操作を紹介している。ここで止めたいのは、滑りを試すためにクラッチを最後までつないで負荷をかける使い方のほうだ。上で見たとおり、ヤマハのブログは発進時に回転を上げすぎる使い方を、摩擦の熱でクラッチ板を傷めることと結びつけて書いている。疑いがある時点で、販売店で見てもらうほうが安全だ。
販売店に相談したほうがいい場面
クラッチ本体はクランクケースの中にある。書き手の考えでは、ここを開ける整備は自分でやる範囲ではない。メーカーの書き方は次のとおり。
- ホンダ(GROM):クラッチに異状を感じたときや、ケーブルの外側に傷があるときは販売店に相談する。規定値に調整できないときや、クラッチが正しく動かないときも同じ
- ヤマハ(XVS400/XVS400C):自己流のエンジン調整や部品の取り外しはしない。エンジンの調整は販売店に任せる
ヤマハのブログ(クラッチ操作の回)も、分からないことはヤマハスポーツバイク取扱店に相談するよう呼びかけている。相談するときは、①いつから・どんな場面で回転と速度が合わないか ②最後にオイルを交換した時期と、入れたオイルの規格 ③添加剤の有無 ④レバーの遊びを測った値、を伝えると話が早い。
まとめ
- クラッチの滑りは、レバーを放しているのに半クラッチのように力が逃げている状態(書き手の整理)
- メーカーなどの資料は、MBなど摩擦特性の低いオイルや、摩擦を減らす添加剤を、クラッチの滑りと結びつけて書いている。今回読んだホンダGROM・CB250Rの説明書の指定はMA
- 今回読んだ資料には「小排気量ならMBでよい」とは書いていない。ヤマハとHondaGO BIKE LABはMBをスクーター向けとしている。指定は自分の車種の説明書で確かめる
- レバーの遊びの規定値は車種で違う。遊びと滑りの関係は、今回の資料には書かれていなかった
- 滑りを確かめるために負荷をかけない。クラッチ本体の整備は販売店へ
セルが回らない、カチカチ鳴るといった始動まわりのトラブルは、セルが回らないときに確かめる順番にまとめている。


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