タイヤを覗き込んで「まだイケそうだけど、どうなんだろう」と迷っているなら、先に結論から。
- 法令が深さの数値を置いているのは溝で、二輪自動車と側車付二輪自動車は0.8mm。道路運送車両の保安基準の細目を定める告示 第89条(走行装置)に書かれている値です。
- その深さになったことを知らせるのがスリップサイン。ただしタイヤメーカー各社は、それが顔を出す手前で換えてほしい、という書き方をしています。
- 溝が残っていても換えたほうがよい場合があります。見るところは、溝のほかにもあります。
この記事は、告示の原文と、ブリヂストン・日本ミシュランタイヤの二輪タイヤ解説、住友ゴム工業(ダンロップ)の技術者が日本自動車工業会の媒体MOTO INFOで答えた記事を読んで、「どこを見れば判断できるのか」を組み直したものです。運営者がタイヤを交換した記録ではありません。数字と言い回しは、末尾の出典で確かめられます。
告示が置いている下限は0.8mm ── 原則の1.6mmとは別枠
溝の下限は、保安基準の本文ではなく、そこから委任された細目を定める告示の第89条で決まっています。走行装置についての条文で、タイヤの滑り止めを扱っているのは第4項の二号です。
ここに出てくる数値は2つあります。原則は1.6mm。そしてカッコ書きで、二輪自動車と側車付二輪自動車については0.8mmとする、という例外が置かれています。
ここで向きを間違えないでください。法令が二輪に置いている下限は、原則の値より浅い。数字の上では、緩いほうです。それでいてタイヤメーカー各社は、0.8mmに届く手前での交換を求めています。数字が小さいことは、長く使ってよいという意味ではない、ということです。
もうひとつ。この0.8mmは、カッコの中で名指しされている二輪自動車と側車付二輪自動車についての値です。原動機付自転車や三輪の車両が同じ数値で読めるのかは、この条文の文面からは決められないので、ここでは扱いません。
条文の書き方で、もう2つ押さえておきたい点があります。
- 深さを見る範囲は、接地する面の全幅にわたって、とされています(ラグ型のタイヤについては別の決め方が併記されています)。どこか一か所だけ深く残っていればよい、という読み方はできません。
- 深さを数える対象から外れる部分も決められています。細かい切れ込み(サイピング)のほか、プラットフォームと呼ばれる部分、そして摩耗を知らせるための突起(ウエア・インジケータ)が、そこに挙げられています。
- そのうえで同じ号には、深さの判定を「ウエア・インジケータ」で行っても差し支えない、という一文があります。このウエア・インジケータが、ふだん呼んでいるスリップサインです。
ついでに言うと、この第4項は一号から四号まであります。一号がタイヤに加わる荷重をそのタイヤの負荷能力以下に収めること、二号がいま見た溝、三号が亀裂やコード層の露出といった著しい破損がないこと、四号が空気圧が適正であること。溝は、このうちの一つにすぎません。空気圧の合わせ方はバイクのタイヤ空気圧、点検頻度は月1回?2週間に1回?適正値の調べ方と正しい入れ方にまとめてあります。
スリップサインの探し方 ── 側面の▲かTWIから、接地面へ
スリップサインの正体は、溝の底にある小さな盛り上がりです。日本ミシュランタイヤの解説では、主な溝の底にある「こぶ」がそれだと説明されていて、どこにあるかは、サイドウォール上部のミシュランマンが指し示しているとされています。
この「どこにあるかを示す印」はメーカーで変わります。ブリヂストンの「タイヤの交換時期と日常点検」によれば、サイズによっては▲の代わりに「TWI」という文字が刻まれている場合があるとのこと。サイドのデザイン上の都合であって、性能や法令上の要件に影響するものではない、と添えられています。
探す順番は、こうなります。
- タイヤの側面を一周見て、▲かTWIの刻印(ミシュランのタイヤなら、サイドウォール上部のミシュランマン)を見つける。
- その位置から、接地面のほうへ視線を下ろす。
- 溝の中に盛り上がった部分があるので、接地面と高さを比べる。
盛り上がりと接地面がツラになっていたら、そこが0.8mmです。
そして、ここからが本題かもしれません。ブリヂストンはこの説明のあとに、サインが表面に出る前に新品へ換えてほしい、と書いています。ミシュランも、法定の限度に達する前の交換を求めています。法定限度は「そこまで使ってよい線」として案内されていない、というのが両社に共通している点です。
住友ゴム工業の技術者が挙げた見どころは、溝だけではない
住友ゴム工業の技術部の方が、日本自動車工業会のMOTO INFOで点検の要点を4つ挙げています。逆から並べると、使用年数、外観(外傷やヒビ割れ)、減り方のかたより、そして溝の深さ。このうち年数はあとの見出しで扱うとして、残りを見ていきます。
減り方がかたよっていないか
同記事では、かたよった減り方について、振動が出たり、タイヤの寿命が落ちたり、走行音が大きくなったりする原因になると説明されていて、見つけたら早めにバイクショップへ相談するようすすめられています。
刺さり物・傷・ヒビが出ていないか
接地面や側面に釘などが刺さっているもの、内部の補強材(コード)まで届いている傷やヒビがあるものは、損傷につながるおそれがあるため、そのまま使わずに交換を、というのが同記事の説明です。気になる症状が見られた場合には、使い続けてよいかどうかを一度バイクショップに相談すること、とも添えられています。
ブリヂストンも同じ向きで、内部の構造材に届く外傷やゴムの割れがあるものは使い続けないよう求めており、よく分からない場合はタイヤ販売店などに相談するよう案内しています。
溝を測って「まだある」と結論を出す前に、接地面と側面をぐるりと一周見る。ここは工具もいらず、自分でできて、見落としの代償が大きい部分です。日常点検としてまとめてやってしまうなら、バイクのチェーンのたるみは何mmが正解?車種で違う規定値の調べ方と注油の手順と同じタイミングにしてしまうのが早いと思います。
「何年で交換」と言えるのか、言えないのか
ここは、メーカーの書き方をそのまま追うのが、いちばん誤解が起きにくい進め方です。
まず、年数だけで線を引けるかどうか。ブリヂストンは、使い方や環境によって変わるので何年とは一概に言えない、としたうえで、交換の時期は時間の経過と連動しているわけではなく、予想するのは難しいとしています。ミシュランも、使用できる期限を正確に見通すのは困難だ、という立場です。
そのうえで、年数は「点検に行くきっかけ」として出てきます。
- 使い始めてから5年以上 ── ブリヂストンは、そのまま使い続けてよいかどうか、すみやかにタイヤ販売店などで点検を受けるようすすめています。MOTO INFOの記事も同じく、バイクショップでの点検をすすめる書き方です。ミシュランは、販売店やタイヤ専門店の専門スタッフに点検を頼むように、としています。
- 作られてから10年 ── MOTO INFOの記事は、外から見て使えそうに思えても、製造から10年以上たったものは新品に換えるようすすめています。ミシュランも、残り溝が0.8mmに達していなくても交換をすすめる、という書き方です。
ただし、ミシュランはこの10年に注記を付けています。落とすと意味が変わるので、そのまま拾います。10年はあくまで目安であって、そのタイヤが実際に使える期限を示したものではない。10年たっていないタイヤでも、置かれていた環境によっては換える必要がある。さらに、10年も、点検をすすめている5年も、どちらも品質保証の期間や期限を示すものではない ── という断りです。
読み方をまとめると、こうなります。10年は「そこまで使える」ではなく上限側の目安で、それより早く換える理由はいくつもある。5年は「5年で交換」ではなく、そこから先は自分の目だけで決めずに店の目を入れる、という区切り。年数そのものが答えを出してくれるわけではない、ということです。
製造年と週は、側面の4ケタで読める
「製造から10年」を自分で確かめるには、いつ作られたタイヤなのかが分からないと始まりません。読み方はブリヂストンの「タイヤ製造年と週」にあります。
サイドウォールに4ケタの数字が刻まれていて、そこから年と週が分かる、というのが基本です。同ページが例に挙げているのは “4311” という刻印で、読み方はこうなっています。
- 前半の “43” ── その年の第43週目。同ページは10月下旬と言い添えています。
- 後半の “11” ── 西暦の下2ケタ。つまり2011年。
- 合わせると、2011年の43週目に作られたタイヤ、ということになります。
なお、1999年以前に作られたものは3ケタで表記されていて、”129″ なら、はじめの2ケタが週、最後の1ケタが西暦の下1ケタ。1999年の12週(同ページは3月下旬としています)を指します。
探すときに知っておきたいのは、同ページが「この刻印はタイヤの片側のみに入っています」としている点です。反対側を見て見つからなくても、そちら側には無いだけかもしれません。
同ページは、走った距離だけでなく作られた時期も把握しておくことが、性能の落ちたタイヤで走るのを避け、安心につながるとしています。新品として買ったタイヤでも、店頭や倉庫にあった時間はゼロではありません。交換したときに刻印を控えておくと、次に迷わずに済みます。
かたよった減り方は、店に見てもらう側の話
先に位置づけから。ミシュランのページは、異常な摩耗が見られる場合を、販売店、あるいはタイヤ専門店で対応してもらう必要があるケースの一つとして並べています。自分で原因を突き止めて終わらせる項目としては置かれていません。
そのうえで、原因の当たりの付け方がこう書かれています。
- 接地面の真ん中、あるいは肩の部分だけが先に減るような異常な摩耗は、その多くが空気圧の管理の不適切さから来ている。
- 空気圧が高いと真ん中側の摩耗が速く進み、低いと肩の側が速く進む。
- どちらも、時間とともにタイヤの内部(カーカスやベルト)を傷める恐れがあり、非常に危険である。
対策として同ページが挙げているのは、空気圧を定期的に見て、車両メーカーが指定した値に合わせること。加えて、異常な摩耗を招く原因は空気圧だけではない、ともされています。挙げられているのは、ベアリングの状態、ステアリング回り、それにトランスミッションやサスペンションといった車体側の要素と、使い方です。空気圧を合わせても減り方が戻らないなら、タイヤの外の話かもしれない、ということです。そして同ページは、少しでも不安を感じたら販売店やタイヤ専門店に相談するように、と結んでいます。
MOTO INFOの記事では、空気圧の点検について、タイヤメーカーとしては月に1回を推奨、測るのは走って内部の温度が上がる前の冷えた状態が望ましい、と答えられています。車体のどこに書いてあるのかも、同記事が答えています。チェーンガードやスイングアームへの表示が、ほとんどの車両にある。そのほか、取扱説明書やメンテナンスノートからも読める、とのことです。ネットで調べた数字が間違っていることもあるので、分からなければバイクショップに問い合わせてほしい、という案内も付いています。
溝が浅いまま雨に出ると、何が変わるか
ミシュランは、スリップサインが出たタイヤで走ることについて、濡れた路面での制御力や運動性能が落ちるうえ、転倒や事故につながる可能性があり非常に危険だ、としています。
「まだ走れる」と「ちゃんと止まれる」は別の話です。雨の日に効いてくるのはタイヤだけではないので、路面の側の話はバイクの雨の日の走り方|濡れた路面で伸びる制動距離と、滑りやすい場所の避け方にまとめました。溝の減ったタイヤのまま梅雨に入る、というのがいちばん避けたい組み合わせです。
迷ったら、見てもらう
ここまで読んで「自分のタイヤがどっちなのか分からない」と思ったなら、それは普通の感覚だと思います。出典にした3者とも、同じ向きのことを書いています。
- ブリヂストン ── 自分で行う日常の点検に加えて、そのまま使えるかどうかを、専門知識のあるタイヤ販売店などで定期的に点検してもらうことをすすめています。
- ミシュラン ── 修理できない損傷かどうかを判断できるのは、訓練を受けたスタッフのいる販売店やタイヤ専門店だけだ、という書き方です。亀裂や変形に気づいたときも、点検を依頼するよう求めています。
- MOTO INFO(住友ゴム工業の技術者) ── 気になる症状が出たら、使い続けてよいかどうかを一度バイクショップに相談するように、とされています。
タイヤの交換そのものも、ホイールを外し、ビードを落とし、組んでバランスを取るまでが一続きの作業です。自分でやるのは見つけるところまでにして、判断と作業は店に渡す。結局それが確実だ、というのが私の考えです。
今日、5分でできること
- 側面を一周見て、▲かTWIの刻印、あるいはミシュランマンを探す。そこから接地面を見て、溝の底の盛り上がりと高さを比べる。
- 同じときに、4ケタの刻印を読んで、いつ作られたタイヤかを控える。
- 接地面と側面に、刺さり物・傷・ヒビがないか一周見る。
- 冷えているうちに空気圧を測って、車体の表示か取扱説明書の値に合わせる。
- 減り方がかたよっている、ヒビが気になる、刻印が古い ── どれかに当たったら、店に相談する。
参考にした情報源
- 道路運送車両の保安基準の細目を定める告示 第89条(走行装置)(国土交通省・PDF)
- タイヤの交換時期と日常点検|二輪車用タイヤの基礎知識(株式会社ブリヂストン)
- タイヤ製造年と週|二輪車用タイヤの基礎知識(株式会社ブリヂストン)
- モーターサイクル用タイヤの摩耗に伴う交換時期(日本ミシュランタイヤ)
- 【習慣化してほしい】バイク用タイヤの定期的な点検とメンテナンス(一般社団法人 日本自動車工業会 MOTO INFO/住友ゴム工業の技術者への取材記事)


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